本のタイトル 「くまさん」まど・みちお  久芳真純

本のタイトル 「くまさん」まど・みちお  久芳真純



小学生の頃、一度だけ「クラスで一番本を借りた人」になったことがある。
でも、私は本をたくさん読んだわけではなかった。
同じタイトルの本を、くりかえしくりかえし借りていたのだった。



「くまさん」というまどみちおの小さな詩集は、小学生の私の手にぴたっと馴染んだ。
つるつるとしたハードカバーで、持っているのが心地いい本だった。
鞄の中に入っているのがうれしい本だった。



2014年にまどさんが亡くなったというニュースを見たとき、
私はその本のことを思い出して購入した。
延長を繰り返し、返却期限が来たら返して、棚に戻ったらまた借りていた本。
買ったからもう返さなくていいんだなと思った。



タイトルにもなっている「くまさん」は、春の詩。
冬眠から目を覚ましたくまさんが、「ぼくはだれだっけ」とぼんやり考える。
それから水面に映った顔をみて、自分が自分であることに気づいたとき、
「よかったな」。そう言った。
ぼんやりとした春の景色のなかで、こぼれたその一言に安心が満ちている。
もうすぐ目を覚ます、今年の春の過ごし方を考えよう。



2020/2/15 執筆者 久芳真純
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